「茨の刻印」・30




 パシン、パシンと魔法を跳ね返す音を響かせながら二人は現在の住処であるアレイラルの家へ戻ってきた。
 フォレストはアレイラルからあてがわれた自室へ戻ると、先日買い物をした袋をごそごそと漁り始めた。
 ベッドの上に次々と女物の服やら、鬘(かつら)やら様々なものが放り投げられていく。
 暫し傍観していた姫だったが、不安になって尋ねる。
「何をしているのだ、フォレスト…?」
 フォレストは一通り要る物を出し終えるとふうと短いため息をつく。
「ま、これくらいあれば十分でしょう。外を出歩いても平気なようにするんですよ」
 そう言って彼はいつものように笑みを見せた。
「まさか、変装するのか?」
 姫はベッドの上に放り投げられた物から想像できるものを口に出した。
「ええ。察しが良くて助かります。とりあえず、ここから好きな物をお選びください」
「身を守る為だしな…頑張って選んでみよう」
 言いながら姫はベッドの端に腰掛ける。
「鬘は私の髪が多すぎて上手くかぶれないような気がするのだが」
「そこはまあ気合でカバーです」
「気合って…」
 姫はちょっと気になる物を見つけた。それは鼻のような眼鏡のような何とも奇妙な物だった。
 眼鏡は眼鏡なのだろうが鼻まで付いている。レンズの入っていない伊達眼鏡だ。そして鼻からは鼻ひげが生えていた。
「フォレスト。何だコレは? 初めて見る…」
 妖しげなそれを摘み上げて姫は問うた。
「ああ、それは世間一般でいうところの鼻眼鏡という奴ですね。どれ、ちょっとかけてみましょう」
 フォレストは姫から鼻眼鏡を受け取り装着した。
(→フォレストの魅力が十下がった! 笑いの追加効果発動(何)
「どうです? 似合います?」
 フォレストは爽やかに微笑んで見せた。
 姫は初めて目にする衝撃に一瞬身を強張らせ、次の瞬間大爆笑した。
「あははははははは!! 何だそれは! ……笑いすぎて…息が苦し…私の負けだ! 降参だ。だから早くそれを外してくれ…っ」
 腹部を押さえ身を捩じらせ、顔を真っ赤にして泣き笑いをしながら姫はフォレストに懇願した。
「まさか鼻眼鏡がこんなにウケるとは…」
 フォレストは意外に思いながらも鼻眼鏡を外した。
 姫はこみ上げてくる笑いを堪えようと、身を小刻みに揺らしている。
「というか、そんなもの身につけるわけがないだろう?」
 笑いの混じった声で姫は言った。よほど可笑しかったのかお腹を押さえてベッドに上半身を突っ伏している。
「ほらほら、姫。コレとか可愛いと思いません?」
 声のする方へ顔を上げると、ウサギの耳のヘアバンドを身につけたフォレストの姿があった。
 別におかしくはない。寧ろ違和感がないのが怖いくらいなのだが。
 …私にはそれを恥ずかし気もなく身につけるフォレストの気が知れないぞ…。
 というか、買い出しに行って一体何を買ってきているのだ、そなたは…。
「あはは…」
 複雑な心境で乾いた笑みを姫は漏らしたのだった。
 ああ、こんなのが賢者だなんて……。
 と思っていると何かが頭に触れる感触がした。手を触れてそれを確認すると、先程フォレストが装着していたウサギの耳のヘアバンドらしかった。
「フォレスト、勝手な事を…うわっ」
「可愛いっ!」
 怒るより先にフォレストが抱きついてきた。しかし、いつものようにしつこくなく直ぐに解放される。
「フォ、フォレスト!?」
 ななな、なんなのだ一体。
「似合うだろうとは思っていましたが…これほどの破壊力があるとは……鼻血が出なくて良かったです」
 フォレストは恍惚の表情を浮かべている。
 そんなフォレストの様子に姫は思わず絶句する。寧ろ引いていた。何だかフォレストの見てはいけない一面を垣間見たようで、少し不信感を抱いた姫である。
「うっ、ウサギの耳は確かに可愛いとは思うがっ…」
 姫はなんの躊躇いもなく、ウサギの耳のヘアバンドを取り払った。
「ああっ! なんて事をするんですか。せっかく似合ってたのにウサ耳…」
 心底残念そうな表情で訴えるフォレストを一瞥し、姫はベッド上に散乱する服の山から変装に適した物を再び物色し始める。
 そうこうしている間にも魔力感知の呪文を跳ね返す結界を張っている為、パシン、パシンと次元を隔てるような高い音が響く。
「フォレスト…この音、結構耳障りな気がするが大丈夫か?」
「と、申しますと?」
「…アレイラル殿が怒らないか?」
 あの鍛冶師は結構こういうのにはうるさい気がする。この音の所為で追い出されては堪ったのもではない。
 少し不安そうに自分を見つめる姫に、賢者はにっこり微笑んで見せる。
「心配無用です。魔法をかけられた本人にしか聞こえませんから。今は耳障りで仕方ないでしょうがその内慣れますし、回数も減ってくるでしょう」
「そうか、なら良かった…」
 そうして、偶然そばにあった物を掴み上げる。
 適当なプリーツの入ったチェック柄のミニスカートと、白い半袖のブラウス。そして袖が肩口までしかない淡いクリーム色のセーター、赤いリボン、膝下位まで伸びそうな靴下。そして黒の革靴。
「はて…? これも初めて見る衣装だな。何処の国のものだろう。随分と露出が高そうな…」
「ああ、それはですね、姫と同い年くらいの少女達が身につける制服らしいです。ジョシコウセイとか言うらしいですよ」
「え?」
 聞き慣れない発音に思わず聞き返す。
「ジョ、ジョシ…なんだ?」
「ジョシコウセイです」
「その音は難しすぎて私には発音できないぞ…」
「そうでしょうね。なんでもコレは異界の方たちが着ている物らしいですから」
 姫は制服の、かなり丈の短いスカートを見つめながら呟いた。
「こんな物を履いたら中が見えてしまうではないか、破廉恥な…娼婦じゃあるまいに」
 ぽいっと横に放り投げる。
「というか、フォレスト。妖しげな物ばかり買ってくるものではない」
「あははは。姫が喜ぶかと思いまして」
「喜んでいるのは、そなたの方であろう…全く」
 姫は短いため息を吐いた。
 そして今度は、鬘を見ようと一つ取り上げる。
「…なんだコレは…大きな毛糸玉のようだな…」
 ちりぢりにパーマがかかり全体が球状に膨張している。
「あぁ、これはアフロっていうんですよ〜。こうやって…まあ、装着するとこういう風に…」
「却下だ」
 フォレストが全て言い終わる前に姫がそれを否定する。まあ無理もないと思うが。
 そんなこんなで、やたらと脱線しながら姫の変装アイテムが決まった時は日が沈みかけていた。
「まあ、こんな感じが妥当だろう」
 現在の姫は、高く結い上げていた髪をゆるい三つ網にして顔の両側に垂らし、服装はかなり地味な物になっていた。長袖の上衣に足首まで隠れるくらいの長衣。町の娘達が着る物よりも地味な感じがする。そして黒縁の楕円形の伊達眼鏡をかけている。
「ずいぶん地味に纏めましたね。…ウサ耳はつけないんですか?」
「…まだ言うか…こんな目立つ物を付けたら逆に不自然だろうが」
 姫はフォレストを睨みつけた。
 ここに落ち着くまでの間、フォレストはずっとウサ耳、ウサ耳としつこくて。
 些か気分を害している姫であった。
 と、そこへ現れたのは姫より更に気分を害している男だった。
「おや、アレイラル。いつ戻って来たんですか。全く気付きませんでしたよ」
 頭にエルフ特有の長い耳を隠す為の青いバンダナを巻き、右が赤で左が新緑を思わせる緑の瞳の男はこの上なく不機嫌オーラを漂わせていた。
「時に、その肩に担いでるものはなんです?」
 フォレストの問いかけに彼の眉間に刻まれる皺が深さを増す。
 そしておもむろに肩に担いでいたものをベッドの上へ転がした。
 それは傷だらけでぼろぼろになった少女であった。所々に見られる鞭で打たれたらしい後が非常に痛々しい。所々、青紫や赤に腫れ上がっている。年の頃は姫と同じくらいであろうか。
「不本意ながら拾ってきちまった…後は頼む」
「あなたが女の子を拾ってくるなんて珍しいですね」
 フォレストにとってそれはいつもの彼からは全く考えられない行為であった。只でさえ人間嫌いでそれに輪をかけた女性嫌いなのだ。
 アレイラルは姫を一瞥して言った。
「ほっとこうと思ったんだが、そのズタボロ加減がいつぞやのお姫さんを彷彿とさせてな。そういうわけでよろしく頼むぜ」 
 そう言って足早に部屋を出ようとしたアレイラルだったが扉の前でこちらへ振り返る。
「それと、俺が拾ってきたなんて言わなくていいからな。これ以上女なんかと関わるのは御免だ」
 今度こそ言うだけ言うとアレイラルはその場から立ち去って行った。
 そしてフォレストが一言。
「あの人、私達がお尋ね者だってこと忘れてるんじゃないですか?」
 ね? と苦笑しながら小首を傾げて姫に同意を求める。
「それほど女性が苦手だと言う事なのだろうな」
「まあ、とりあえず姫は正体がばれないように暫くは変装とかないように。たった一人の人間からでも情報はあっというまに広がっちゃいますからね」
 フォレストはベッドの上に横たわる少女を一瞥して言った。この場合彼の言うたった一人は彼女の事を指しているのだろう。
「うむ。疑いを晴らすまでは我慢する」
「んー、じゃあ新しい呼び名を考えなくてはなりませんね。流石に人前で姫と呼ぶわけにも行きませんし」
 フォレストは顎に手を添え考え込む。そんな彼を見て姫は慌てふためく。何故なら彼に名付けられた者はことごとく安直なありがたくない名で呼ばれるからだ。
「ティ、ティア! ティアと呼んでくれ!」
 姫は必死に目の前の賢者に訴えた。
「ティアですか。解りました、ではティアと呼ぶことにしましょう」
「ああ」
 助かった…と心の中で姫はほっと一息ついたのだった。

*          *          *


「やめてください、お嬢様。私にはもうこれ以上…・・」
「大丈夫よ。貴女さえずっと黙っていてくれれば誰にも見つからないわ」
 そう言って目の前の主はにっこりと微笑んだ…毒を含んだようなそれで。
 ああ…もう駄目だ。……このお方はもう、元には戻りそうにない――――。
 無力な私に出来ることは、もう何も残されていないのだわ……。
 それでも堕ちていく様子を見ているのは堪らなくて。
「どうか私の願いをお聞き入れください。こんなことしていては駄目です! 私が侍女として長年お仕えしてきたお嬢様は、このようなことをなさるお方ではありません! お願いですから…っ」
 パチン!
 乾いた音が室内に響き渡った。主に頬を打たれたのだと理解するのに数秒かかった。
「貴女、誰に向かって口を聞いているの? お仕置きが必要みたいね。衛兵!」
 彼女の言葉に、近くに控えていた兵士二名が駆けつける。
「この子を地下牢に閉じ込めておきなさい。教育しなおさなくちゃ」
 捕食者を見つけたような笑みで彼女は言った。
 その表情は侍女が今まで見たことも無いような嫌悪感が感じられ、背筋が凍るような思いがした。
 そうして深夜、地下牢で鞭のしなる音が響き続けたのだった。
 地下牢内は薄暗く、かろうじて蝋燭の炎で辺りがぼんやりと確認できるくらいである。
 壁はひんやりとして冷たく、辺りからは腐臭と苦しげな呻き声が聞こえてくる。
 侍女が気を失っても、鞭打つ音は途絶えることがなく。そうしているのは彼女の主。
 そして、鞭を握り締めたまま、感情の伴わない表情と声で彼女は言った。
「全部ティナローザが悪いのよ」
 あんな小娘に何が出来るというのよ。私こそが王女に相応しい。
 王家に生まれたというだけで王女の身に甘んじているあんたが憎いわ。
 ホント、殺したいくらいに。
「だから、あなたティナローザの分まで鞭打たれて頂戴」
 既に意識を手放している自分の侍女に彼女は冷たく言い放つ。
(お、嬢様……めて……やめ……)
 微かに戻りかけていた意識も痛みと共に再び闇に紛れる。

「……っ!」
 声にならない声をあげ、目覚めたそこは。
 いつもと違う天井で。室内には必要最低限の家具しかない、少し殺風景だと感じる部屋。
 彼女にはまったく馴染みのない部屋。
 窓の外はすっかり闇色に染まっていた。
「あ、目が覚めたみたいだな。まだ動かない方がいいぞ」
 そう言って目覚めたばかりの彼女を心配そうに覗き込んできたのは、綺麗な澄んだ菫色の双眸。
「大人しくしててくれ。水を持ってくる」
 少女は立ち上がり開きっぱなしのカーテンを閉め、部屋を出て行った。
「私…生きてる…」
 でもどうしてこんな所にいるのか彼女にはさっぱり解らない。地下牢に繋がれていた記憶が残っているのだ。
 扉が開く音がして、先程の少女ともう一人、彼女より頭一つ分背の高い青年が一緒に入ってきた。
 姫は起き上がろうとする傷だらけの少女を支えてやる。そして水を手渡す。
 やはり喉が渇いていたらしく、すぐに飲み終わった。
 そして傷だらけの少女はほっとため息をついた。
「少しは落ち着いたか?」
 姫はずり落ちそうになる黒縁の眼鏡を指で上に上げながら、少女に尋ねた。
「はい…あの、ありがとうございます…」
 やはり不安で仕方ないのか、態度がぎこちない。
「私はティアという。彼はフォレスト。そなたは名はなんと申す?」
「私はサリカと言います…」
「そうか。教えてくれて感謝する」
 姫は彼女を安心させるために微笑んで見せた。
「あの…どうして私はここにいるんですか?」
 少女サリカの問いにフォレストが答える。
「貴女は我々の仲間が道に倒れていたのを、ここまで運んできたんです。随分辛い思いをなさったことでしょう。ここなら安心ですからゆっくり静養してください」
 姫と同じくフォレストも微笑む。年頃の少女達がドキリとするような笑みで。
「あまり長居しては体に障るだろうから、そろそろ失礼する。無理は禁物だぞ?」
 姫の言葉にサリカはこくりと頷く。
「そうだな、今夜はもう遅いしまた明日の朝くることにする。おやすみ」
 そういい残し、姫とフォレストは部屋を後にした。
 そして姫の寝室に使っている部屋へ行く。
「思いのほか元気そうで良かった。目覚めたとたんパニックで暴れだしたらどうしようかと…」
 姫は黒縁の眼鏡を外しながら言った。
「見た目は少女でも打たれ強い方なのかもしれませんね」
 フォレストはベッドに腰を沈ませる。
「かもな。…彼女の着ている服はどこかで見たような記憶があるんだが、いまいち思い出せぬ」
 姫はその場に佇んだまま記憶の中の引き出しを捜すように思案を巡らす。
「なかなか鋭いですね、姫。あの服はルヴォラム様の屋敷の侍女の物ですよ」
 あっさりと断定するフォレスト。
「なんでもお見通しだなフォレストは」
 姫はくすりと笑う。
「やだなぁ。頭が良い上に美形で素敵だなんて照れるじゃないですか」
「いや、そこまで言ってない」
 即答する姫。
「似たようなもんです」
「どこがだ」
 しょうがない奴だと思いつつ苦笑する。
「ひ…じゃなかった。ティア、こっちこっち!」
 言いながらフォレストは右手でおいでおいでと招く動作をする。
「ん?」
 何の不信感も持たず姫はフォレストの方へ歩み寄る。
 そして次の瞬間勢い良く腕を引っ張られ、気付いた時はフォレストの腕の中に居た。
「あははは! ホント単純ですね〜」
 フォレストは楽しくて堪らないといった様子で満面の笑みだ。
「ばっばか! 放せ無礼者っ!」
 姫は離れようと懸命にもがくがいつものように彼の腕はびくともしない。
「毎回酷い言われようですね〜。今のあなたはティアなんですからこれくらい多目に見てください」
「はあ!?」 
 思わず姫は驚きとも非難とも取れる声を上げた。息が上がって顔は真っ赤に上気している。
「この騒ぎに乗じてこのままどこかへ連れ去ることが出来たら……」
 姫は思わずドキリとした。いつもの彼とはうってかわってその瞳には真剣さが宿っていて。
 真摯な瞳で見つめられて姫には視線を逸らすことなど出来ず。
「フォレスト…」
 困り果ててか細く彼の名を口にした。
「そんな困った顔しないでください。愚かな真似は致しません」
 そういってフォレストはいつものように微笑んだ。
「私はこの国を結構気に入ってますからね。陛下が悪政ばかりする酷い国だったら躊躇わずあなたを攫って行きますけど」
「……」
 何か言いたいのにそれは言葉にならなくて姫は自分で自分が歯がゆくなる。
 これ程までに自分の事を思ってくれるフォレストと、その気持ちに答える事が出来ずに迷っている自分。身分の枷など無視してしまえたらどれほど気持ちが楽になるだろう。
 私だってフォレストの事が好きだ……。けれど…。
「ま、しんみりしてても仕方ないですし、寝ましょうか」
「そうだな」
 そうしてベッドに潜り込もうと布団をめくると、フォレストも一緒に中へ入ろうとして…。
「ちょっと待て、フォレスト。何故そなたまで一緒に寝ようとしている?」
 するとフォレストは悪びれた風でもなく言った。
「だって私床で寝るなんて嫌ですもん。私のベッドはサリカさんに占領されてますし。姫と一緒に寝たいですし」
 フォレストが一番強く主張したいのは最後の部分だけだろうが。
「なっ…。よし、解った。私が床で寝る」
 姫が掛け布団を持ち床へ寝転がろうとするとフォレストに遮られた。
「駄目です。あなたにそのようなことさせたとあっては、守り手たる私の立場がありません」
 確かにフォレストの言う事は尤もだ。言っていることは解るが…。
「いや、しかしだな…」
「しかしもカカシもありません。一緒に寝るといったら寝るんです! 別におかしな真似しようなんてほんのちょっとしか考えてません」
 とフォレストは微妙な事を力強く言ったのだった。
「さもなくば…」
 フォレストの眼光が鋭さを増していく。
「なっ、なんだ?」
 姫は思わず一歩後ろに下がった。
「みんなの前でちゅーしまくりますよ!?」
 脅しなのか、ただの下心なのか解らない脅迫めいたことをフォレストは口にした。
「だっ駄目だ! そんなこと絶対に駄目だっ!!」
 顔を真っ赤にしながらも精一杯反論する姫。
「ならば迷わずベッドへGO!」
 飼い犬に命令するようにフォレストはベッドを指差す。姫は仕方なくフォレストの言うとおりにした。
 そうしてフォレストもベッドへ入り明かりを消す。
 真っ暗になった静かな室内。
 それとは裏腹に姫の心は嵐のように錯乱している。
 心臓の音がどくん、どくんとかなり耳障りなほど鼓動が高鳴っているのが自分でも十分すぎるくらいに解ってしまう。そして、それがフォレストにも聞こえてしまいそうで気が気でない。
 あまりにも静かなので、姫は声をかけてみる。
「フォレスト、もう寝たのか?」
「今横たわったばかりなのに寝てるはずがありません」
 至極当然の答えが返ってくる。
「そ、そうだな。…ちょっとでもおかしな真似したら『星読』で叩くからな!」
 父親以外の異性と同じベッドで寝るのは初めての経験で、しかも相手がフォレストで。嬉しいような怖いような複雑な気持ちだ。
「はいはい。ご随意に」
 フォレストは笑い混じりの声でそう言った。そして姫の頭を優しく撫でる。
「おやすみなさい」
 ドキドキするけれどそれはとても安らぎに満ちた声音で。
「おやすみ、フォレスト」
 そうして姫は眠るべく完全に瞼を閉じたのだった。
 相変わらずドキドキして気持ちは落ち着かなかったけれど。



TO BE CONTINUED...
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